天気予報が言っていたとおり雨になった。
傘を持っているから平気だ。
下駄箱の並んだ部屋(なんていうのかな)から同じ制服の人たちが飛び出していく。
どしゃ降りの中をローファーで歩くのは、平気じゃないな。
靴下にぽつぽつ跳ね返った泥水の跡がつくんだ。
きれいな色の傘はとてもお気に入りだ。
春の雨は、すこし冷たい。
「ヤァ、ヤァ」
顔を上げた。
くすんだ
紫
色のコート。
今私の眼も
紫
色なのかしら?
「いい傘ダね」
「あなた傘はささないの」
コートだけでは春の雨に負けてしまうよ。
「ボクは雨に打たれるのが好きでネ」
「でも、かぜをひくわ」
空から見たら、わたしたちは、とってもきれいでしょう。
夕焼けと青空の境い目色と、紫色。
まるでわたしたちひとつの絵みたいな。
「じゃァ」
彼は笑った。
「君が傘をさしかけてくれるカい?」
紫色のコートが笑う。
「でモ、君が濡れてしまうカも」
彼は雨だれのひとつのようにびしょびしょだった。
確かに隣に立たれると困るかもしれない。
「だったら」
あなたがこの傘をさせばいいよ。
「ホント?」
「わたしは走って帰ればいいもの。」
雨は嫌いじゃないもの。
「アリガト」
「傘はいつか返してくれればいいよ」
また会える気がするから。
「わかったありがとう、君の名前は」
「名前も今度でいいでしょう?」
「そういうのもおもしろいネ」
「でもあなたの名前をききたいな」
「今度言うよ」
明日か、一週間後か、二年後か
わからない"次の日"が、なんだか近く思える。
わたしはこの人と恋をするかもしれない。
「じゃぁ」
「またネ」
「また今度」
「また今度」
傘
は雨空を泳いでいく。
(晴れたり曇ったり/070317)
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