ゆらりゆらり夢現


 「楽しかったネェ」

 「うん!」

 
 遠くから、まだ太鼓や笛の音が聞こえた。

 夜の道は結構暗い。

 ほんのりと遠くに見える提灯のあかい光を、ふっとは眺めた。


 「どうしたのォ?」

 「うぅん。なんでもない」

   
 の右手をスマイルがとる。

 弐色の左手には金魚の入ったビニール袋。

 中で3匹の紅い金魚がゆらゆら泳いでいた。

 
 「綺麗だネ」

 「うん。スマがとってくれた金魚」

 「や、だよぉ」


 にっと口端を上げる。

 ちょっと悪戯を込めた笑い方。
 
 はそのスマイルの笑い方が好きだ。


 「浴衣きれいダね」

 「さっきも見てたじゃん」

 「いや、何か暗いとこでみたら映えるネェ。」

 「そっかぁ。へへ」

 「金魚さぁ」

 「うん」

 「やっぱり金魚鉢に飼おうねー」

 「そだね」

 「名前どうしようかなー」

 
 にっこり笑っての手にある金魚を見つめる。

 金魚はどこにいてもゆらゆら揺れながらひたすらゆっくり泳いだ。

  
 「ユーリとアッシュとスマ。ちょうど皆と一緒」

 「ボクぅ?」

 「うん」

 「じゃぁスマ君だけ可愛がってね?」

 「…うーん」

 「独占欲だょネェ。アハ」

   
 金魚は何も言わない。

 1匹が少し息苦しそうに水面に上がってきた。

 水草は露店のバイトのお兄さんがおまけに入れてくれたものだ。


 「ネー

 「ん?」

 「大好き!」

 「うん、大好き」


   




   ちゃぽん


 小さい3つの水飛沫を上げて水の中に金魚が踊り込む。

 透明な硝子の金魚鉢。

 半分透き通った砂利と、金魚が動くたびにゆらゆらと揺れる水草。

 はそれをじっと見つめていた。

 赤い華奢なえらが痙攣するように動く。

 あっちに行ったかと思えば、つぃと戻ってくる。

   
 「あれー、まだ浴衣のままだったノン?」

 「うん」

 「早くシャワー浴びちゃえば?」

 「そうだね」

 「あ、金魚…」


 スマイルはたっと金魚鉢に駆け寄る。

   
 「綺麗だネェ」

 「ん」

 「…何か…脆い、ね。」


 はふっとスマイルを振り返る。

 スマイルは、無表情に金魚を眺めていた。

   
 「脆いね。金魚って」

 「うん。弱い生き物だから」

 「…金魚だけじゃない。ボクも、も、皆…」

 「…。」

 「でも綺麗だねっ!!」

 「うん」

 「綺麗綺麗。みーんな」

 「そうだね・・!」

 「夢みたい。夢みたいに綺麗なんだよ、みんな。」

 
 いつの間にか二人、固く指を絡めていた。

 
 「夢じゃないけどね。」

 「うん。」


 透き通った金魚鉢に二人の笑顔が映った。





 皆皆脆いけれど

 脆いからこそ

 全てが、美しく、愛しい。

 君を見てそう思った。






















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 一年位前に書いたのをちょっと手直し手直し。

                           050925

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