ビニール袋片手に吊り下げながら、歩みを進めるのを少しだけ躊躇した。
あぁ、弱い奴だ、俺は。
そう思いながら、それでも足がのいる場所へと向いていた。
会いたくて仕方が無い。
「・・せこいなー俺」
言ってもどうしようもない。
あと一週間も抜け殻のような生活をするのは正直いやだった。
自分に呆れながら、六は夜の道を歩いた。
軽いチャイムの音がした。
気がついて、ドアへ向かって駆けて来る。
「はい、どちらさまですか?」
変に余所余所しい声に六は少し笑った。
ドアを開けはしないけれど、ちゃんとそこにいる。
「俺。差し入れ持ってきた」
「ろ・六?!!ちょ、ちょっと待ってね」
慌てて錠を外そうとして、手がもつれたらしくなかなか扉が開かない。
それがとてもとても可愛かった。
「ごめんごめん、久しぶりだねー」
笑顔がひょっと飛び出してきた。
本当に久しぶりだった。
「しばらく見てねぇから見忘れたぜ」
「もぉ、ひどいなぁ!!入ってよ、寒いでしょ?」
心の中でガッツポーズを決めながら六は下駄を玄関に脱ぎ捨てた。
「ほんと寒そう。もっとあったかい格好したら?」
久しぶりに会ってまたいつもと同じ心配をしてくれるのにほっとしたような、そんな気分になった。
リビングのこたつの上にはがさがさと参考書やらノートやらが広がっている。
「ごめん荒れてて・・すぐ片付けるから」
言いながら教科書をたたむの手を止めた。
「俺が勝手に来ただけだし勉強してろよ」
「ぅ、ん、…早くテスト終わらないかなぁ」
は来週の定期テストに向けて頑張っていた。
「学生のうちはまだまだ終わらねぇな」
「そだねーぁはは」
「んでこれ差し入れ。お前好きだったろ」
「きゃー桜賀屋のケーキ!!!ありがとー六!!」
紙箱をぱくっと開くと綺麗な飴のかかったフルーツケーキだった。
少し照れながら六がケーキを買っている様子が目に浮かんだ。
「やっぱり六はあたしの好きなもの心得てるなぁ」
「お前甘いもんしか食わねぇから」
笑って六が言う。
「そんなことないょ・!!」
も笑う。
いつの間にか忘れていたの笑い方、声、色んなものを一気に思い出して六は柄でもなくどきどきした。
は淡いピンクの玉の付いた可愛らしいフォークを持ってきた。
「六はいらないの?」
「俺甘いもんダメ」
「あ、そうなんだ。ちょっとでも?」
「団子位ならたまーに食うかな」
はケーキのとがった部分にフォークを入れた。
甘い甘い香りがした。
それをぱくりと口に入れた。
幸せそうに笑う。
「ぅーん、やっぱりおいしい!!!」
「よかったな」
「六も一口?」
「いらねぇや」
「食べさしたげる」
ケーキをフォークに刺して差し出した。
「恥ずかしいだろ」
「誰もいないじゃん」
「や・でもよ」
「ホラ」
「ぅ」
押し込まれて、フルーツの甘酸っぱさが口の中に広がった。
飴の甘さと、ふわふわのスポンジの糖分にむせ返る。
「甘ェ」
「でしょ?」
「でもうまいな。」
「うん。六が買って来てくれたケーキだから」
六は頷いて立ち上がった。
そろそろ行かなければ。
と自分では住む世界が違うのだ。邪魔をしてはいけない。
「え、もう帰るの?やだよ」
が慌てて六の腕を掴んだ。
「お前試験勉強しなきゃなんねぇんだろ。」
「もうちょっといてよ六」
「また試験終わったら遊びに来てやっから」
笑って頭を撫でてやった。
どうやら納得したらしい。
「送ってく」
「風邪ひくぞ」
「いいの」
「だめだ」
六に言われてしゅんとして、玄関までついてきた。
下駄を履いた六の袂を引く。
「何だよ」
「キスして。」
「今かよ」
頷いた。
六はの顎をひいて軽いキスをした。
甘酸っぱい果実の味がした。
「またな」
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もの凄く久々に六さん。
フルーツケーキよりチョコケーキが好きです(●´U`●)
051229
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