眩しいくらいの朝の光に、目も開けられないようだ。
 小春日和。なんてすばらしんでしょう。
 その割には冷たい風が耳を凍てつかせる。

 俺は歩く。
 悲しい過去も、分からない未来も、全部背負う。

 スタートをきるのだ。
 昨日が最後で今日が始まりなのだ。
 君とはもう永遠に会えないと知ったのだ。
 君は世界のどこかで今日も生きている。
 俺も世界のどこかで今日も生きていく。
 君を失った悲しみは癒えることが無いけれど、それでも。
 悲しい恋の思い出といえばきれいだけれど、でも、ほんとうはどろどろして苦しい。

 吐き出した息は白くなってすぐ消えた。
 冬の朝。
 もうこの街には戻らない。二度とここへは来ないだろう。
 これから俺は残りの人生を過ごすのだ。


 昨日の夜、手紙を出した。
 暗くて、ぽつぽつしかない街灯が道を切れ切れに照らしていた。
 自動販売機のそこだけ妙に明るい。
 羽虫が群がって明滅する。
 スポットライトのような明かりの下で、流れるように真っ赤なポストが誇らしげに立っていた。
 寒いのを堪えながら、白い封筒を取り出した。
 灯りの光を反射してちらちらまぶしくなる。

     様

 俺の震えた字がそう書いた。
 あの日からずっと愛した侭の君の名を書いた。
 差出人の名前は書かなかった。
 中身は、一枚、俺の使っていたギターのピックを入れた。
 俺がここで生きた証だった。
 2年前のの住所に、届く筈が無いだろう。
 俺が手紙を出したのは、2年前、と別れた日のだ。

 さようなら、
 そう呟いて、真っ赤な動脈に白い真四角を捩じ込んだ。

    うまれかわるなら、なにがいいかな


 駅が近くなってきた。
 早朝の駅は人は疎ららしい。
 聞こえてくるのは、ただ電車の音と、それから何故か灯油の匂いがした。
 ギターと二人きりで、生きていこう。

 俺は君のように強くは生きられませんでした。
 自分の全てに疲れてしまったよ。
 いっそこのまま砕け散って灰になって無くなってしまえたのなら楽になれたかな。
 逃げ出してしまいたい。
 無論逃げ道は幾らでもあった。
 マフラーをいつもよりきつくきつく巻いてやれば好かった。
 カッターナイフもハサミもあった。
 それで自分に穴をあければそこから透明な血が流れ出して逃げられたのに。
 自分の中の檻の鍵は開いたのに、俺はただそこで救世主がやってきて助けてくれるのを2年も待っていたんだ。

 吐き出した息は白くなってすぐ消えた。すぐ消えた。
 残るのは君に贈った手紙だけだ。

 駅のホームはがらんとしていた。
 旅立ちの朝だ。
 大きな音をたてて電車が飛び込んできて、それに乗り込んだ。
 ドアが無感情に閉じる。
 この先の記憶は俺の脳内に閉じ込めておくことにした。

 これでもう君に伝えたいことはない。
 ピックは好きなように使って欲しい。
 、生まれ変わったらまた君に会いたい。
 今でもずっと愛している。さようなら。










 (冬の朝:ランクヘッド/061022)


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