全部全部夢でも好いから
   欠けたパズルの一ピース
   僕らを繋いでくださいな




  君に繋がるファイブエム







 いかにも、俺は汚らわしく、感傷的で、矮小な人間だ。

 君がいないから、探す。探しても、君がいない。
 雨音は、止んだ。
 窓を開けば、世にはき出された街が見える。
 そのベランダで、街の音を聞きながら、俺は君の思い出に浸っている。

 君に最後に会ったのは、いつだったろう。
 君に貰った最後の手紙に、何が書かれていただろう。
 君が最後にくれた電話に、俺は如何言って受話器を置いただろう。
 君と過ごした日々は、もうあまり記憶に深くない。


 俺は、狭いベランダから身を乗り出して、地上を見やる。
 発狂したままそこに飛び降りたいと思いながら、やはり思い止まる。
 恐ろしく精彩に欠けた俺の神経よ。正鵠を射ない俺の衝動よ。(それさえも受け入れる君の清浄さよ)
 もう君に会えないのかと思うとこの身が裂けそうになる。

 最後を迎える前に、君に伝えたいことがある。
 最後を迎える前に、もう一度、もう一度でいいから、俺の名前を呼んでくれないか。
 最後を迎える前に、俺がいなくなるのなら、泣いてくれないか。
 そんな下らない望みなんか叶わなくッてもいいんだけれど。


 煙草の時化た様な匂いがする。
 俺はこれから此処で生きて、此処で死ぬんだろうか。
 延々延々自問自答。
 答なんか無くッていい。
 所詮答のある問題は至極簡単に過ぎないものだ。

 何度も願うことがある。君が俺を少しでも覚えていてくれることだ。
 何度も願うことがある。君だけが幸せでいてくれることだ。
 何度も願うことがある。君が二度と俺に会わないことだ。
 脳内九割九分九厘君を思う。君を、思う。


 嗚呼笑えば好い。
 しみったれた煮え切らない愚図の俺を。
 笑ってくれる奴もいない。
 夕方の風は俺には純粋すぎて涙が出た。
 世界はこんなに奇麗なのに俺は。俺は。

 君を思えば思うほど君の記憶は霞んでいく。
 手を伸ばしてもぎりぎり届かない。
 ファイブエム、遠い、なぁ。



   今朝
    目が覚めて、おまへのやさしさを思ひ出しながら
     私は私のけがらはしさを嘆いてゐる













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 引用 中原中也「無題」 (060604)




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