ギターの音は雨の様だ。
 痛い、突き刺す音だ。
 満身創痍になって、俺は空っぽの音楽室から空っぽの教室へと移動していく。(結局どこも空白です。埋まりやしません)

 自分の鞄を引っ手繰るようにして取る。
 昼間は有象無象の姦しい声に満ちていたが、夕方を過ぎるとそこは驚く程静かなものだ。
 そこに僅かな心地良さを感じた。
 薄暗い教室。空も飛べない。誰もいない?


  「ナカジ?」


 驚きと、訝しみをを込めた声がした。
 俺をナカジと呼び捨てにしているのは、ムラジと、あいつだけだ。

 「

 何でいんの、という質問を飲み込んだ。
 彼女の目に悲哀と寂寞が居た。
 泣いていた?

 「何してんの」

 「何にもしてない」

 「早く、帰れば。」

 「うん、そうだね。」

 は、教室の自分の席に座って、呆としている。
 返事に気力がない。
 右の耳から左の耳へ、どこからどこまで、さよなら。

 俺はの悲しみなんかには興味を持てずに(持たなくていいんだろうなぁ)、鞄とギターを持って教室を出た。


 辺りはもう夕日が落ちて、薄暗くなっていた。
 はまだ硬い椅子に貼り付いたままだろうか。
 嗚呼、あの、俺を見た目が脳から離れない。
 俺に何を期待しているんだ。
 女の涙なんか無くなッちまえ。
 薄情だ何だと言うだろうが元々人間たぁ薄情なモンだ。

 でも一寸待て。
 何故は俺を呼び止めた?
 何故俺を?
 嗚呼、煮え切らない俺よ!




 息が切れた。
 階段を駆け上がる俺と蛍光灯の影。
 教室は真暗だ。鍵は開いている。

 「!」

 はまだそこにいた。
 まだ、呆けて、はたはたと涙を落として、泣いていた。

 「ナカジ?」

 俺に気付くと、涙を拭った。

 「何があった?」

 「何もないよ」

 「何があった」

 「何もな「言えよ!」

 苛々した訳じゃない。
 このままを放っておくのがいやだっただけだ。

 「どうしたらいいかわかんないの…。」

 「如何?」

 「これからどうしたらいいんだろうって、考えてたの」

 また泣く。
 俺は呆れながら、遠くのことの様にそれをきいていた。

 は言う。
 周りにいろんなことがありすぎて全部が分からないと。
 夜が来るのが怖い。
 嘘吐きな人間が怖い。
 そういう自分が厭だ。

 俺はそれを一蹴した。


 「んなこと考えてたらキリがねぇ。」


 には、それはどう届いただろうか。
 少し笑ったように見えたから、悪くはなかったらしい。




 夕闇を蹴り上げて歩く。
 は俺の少し後をついてくる。

 「あのねナカジ」

 俺は何も言わない。

 「さっき、何で戻ってきてくれたの」

 は笑っていた。



その質問は 狡猾




 俺は如何とも答えられず、アスファルト道路に沈んだ。

 







 (狡猾なのは、俺とお前、どっちだ?/060521)


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