規則的な、レールの上を車輪が滑る音を聞きながら、俺は立っていた。
古ぼけた、でも鮮やかな赤に白いラインの電車。
さっき止んだところだから、やはり乗り込んだ車内は雨のにおいがした。
平日の2時というので中はかなり空いていた。
青色シートに座り込む。
ゆっくりとゆっくりと、電車はうごきだす。
向こうのコンクリートに生えた枯れ草が、列車のつくる風に押し流されている。
スピードが上がる。
一両目から抜けていく風が心地よい。すこし湿っていることを除けば。
列車の振動に合わせて、電車の中の全てのものが微動している。
振り返って窓の外を見た。
自動車が流れていく。道路と並行して赤い電車は滑っていく。
誰かは俺を嗤うだろうか。
諦めの悪い奴だと云うだろうか。
君のいない毎日は色がなくて、誰かと話しても乾いた笑いしか出ない。
無理矢理に"君がいなくても平気な自分"を演じているのは、如何しても辛かった。
一度だけ、電話で君と話した。
それでも何所か、余所々々しくて、あの頃の会話とは違っていた。
会いたい。誰かに嗤われようと、会いたい。
赤い電車は、走っていく。
歌うように、赤い電車は鳴る。
ファソラシドレミファソー
俺の孤独も、鳴る。
音もなく、響いていた。
俺の乗った車両には、もう一人、ずっと寝続けている男がいた。
そのほかには、いない。
まっすぐに見える景色は、濡れた道路や、住宅街。
ここにはこれだけの人がいるのに、君はここにいない。
赤い電車が連れて行ってくれるさ。
踏切のところにいた柴犬が言った。
赤い電車は幾つもの駅を過ぎる。
ここでは雨は降らなかったらしい。ホームは乾いていた。
君の街まで、あと3駅だ。
本当に今会うのが必要なのか?
会ってから、またあの現実に戻って、生きていけるだろうか。
如何にでもなれ。
今、俺は会いたいんだ。
どこまでも、線路が続いていく様だった。
どこまでいっても、君に会う。きっと、会う。
どれほど時間が経ったかは記憶していない。
電車の扉が開いて、俺は吐き出された。
白いコンクリートのホームに降り立つ。
赤い電車を見送った。
赤い電車は、遠く向こうへ吸い込まれていった。
自動改札を抜けて、君の街へ無事着陸した。
アポロ月面着陸より俺にとっては重要で、世界にとっては無用だった。
マフラー翻して歩き出す。
かつて愛していた、そして今も愛している、遠い君のところへ。
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♪赤い電車/くるり
見たことのない景色見せてよ赤い電車
(060502)
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