殺してやろうか、とナカジが囁いた。
 張り詰めた神経が耳鳴りを起こす。反響する。
 手首を掴まれて、片手で付け根を締め上げられる。
 痛くてが小さな声を上げた。
 珍しくすぐ傍にあるナカジの顔を直視してしまって、目をそらした。

 「お前の死ぬところが見たい」

 何て殺人鬼なんだ、とは思った。
 死んだらもう此処へは帰ってこられない。それは厭だ。反芻する。

 「お前が死ぬ前に何を見るのかを知りたい」

 ベッドの上に押し付けられてナカジが被さっていて視界が暗い。
 なのにやけにナカジのメガネだけがギラギラとしていてそれが怖い。
 死の恐怖。死の快楽。死の寂寞。死の落下。

 「何で泣かないんだ・・?」

 解らないという顔で訊く。
 彼の中の論理でははとっくに泣いている筈なのだろう。

 「怖くないのか?俺が本当にお前を殺しても?」

 は一度迷って、頷いた。
 ナカジが悲しそうな顔をした。

 「殺してやる」

 痛いようなキスをした。
 顔を離す前に、がりり、と歯で音を立てての唇を噛んだ。
 すぐに血が溢れ出した。
 それを親指で取って舌先で舐めた。

 「ナカジなら怖くないよ」

 独り言のように言う。
 は、血が流れるのを止めようともせずナカジを見上げている。

 「俺は・・お前に、殺されたんだ」

 熱い滴がナカジの頬を伝った。

 「お前が死なないから、怖い。殺される」

 「あたしは死ぬよ」

 「俺がどうやってもお前は怖がらないだろうな」

 「今時間が止まったら怖いと思うよ」

 「なら、止まればいいのにな」

 はは、と乾いた笑いを出して言った。

 「何処にも行くなよ」

 到底"抱き締める"と言えない、しがみ付くようにの体を抱いた。
 首元に顔を埋めて、泣いた。

 「行かない」

 初めてナカジが声を上げて泣いた。








(あなたが死ぬまでわたしは死ぬ気はないわ/061229)

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