【1】 かけがえの


  あなたの知らないところにいろいろな人生がある。
  あなたの人生がかけがえのないようにあなたの知らない人生もまたかけがえがない。
  人を愛するということは知らない人生を知ることだ。


 「難しい話」

 「捉え方によってはな」

 「ナカジは分かるの?」

 「さぁな」

 無造作に走り書いた誰かのメモ。
 人を愛するということ。

 「灰谷健次郎だ」

 「有名な人?」

 「馬鹿」

 「何よぅ」

 「詩人・小説家」

 「いいこというなぁ」

 「分かったか?」

 「全然」

 「まぁ・・今は分からなくていいんだろ」

 「そうかなぁ」

 「そうだろ」

 そう言って、ナカジはくしゃりと紙をまるめた。











  【2】 忘れては


 「あっ」

 急にが声を上げた。
 ナカジはの向いている上の方を見た。

 「紙飛行機」

 「・・くだらねぇなぁ」

 「くだるよ、ほらあんなに飛んでく」

 窓の外を横切って、飛んでいく、飛んでいく

 「追っかけよう」

 「馬鹿か」

 「追っかけてくる」

 「やめろ恥ずかしい」

 の襟首掴んでナカジが遮った。

 「えーだっておもしろいよ」

 「やめとけ」

 「何でそんなに止めるのよぅ」

 ナカジは黙って教科書に向かった。

 「勉強ばっかりだなぁ」

 「ギターもな」

 付け加えた。

 「(俺が飛ばしたなんて、言えるかよ。)」










  【3】 喧嘩して


 冷たく冷えたコーヒーが、不味くて咽喉に染みた。
 こんなに不味かったか。
 そうだったかなぁ

 見上げた空はどこまでも果てしない

 永久に変わらないであろう青空。
 そんな存在でありたかった。

 「あー・・馬鹿だ俺」

 ほんとに馬鹿だ
 折角握り締めていた雪片は。
 ぱっと開いたら、溶けて消えていた。

 何で気付かなかったんだろう

 ゆきはとけるものだと

 「馬鹿だよなぁ!!」

 恒久の空に叫ぶ。

 コーヒーが後になって苦く思えた。
 膝を抱えて、肢の間で頭を抱えた。
 冷たいスチール缶を早く手放してやりたかった。
 ぽつりと雫が垂れた。

 「雨か・?」

 見上げた青空。
 雲ひとつ、ない。

 「何だよ、雨じゃ、ない・・」

 あとからあとから雫が垂れた
 雨じゃなきゃ、何だって言うんだよ









  【4】 野辺の小道や


 見事なフォームで投射された小石が、水面を蹴って、跳ねて、跳ねて、ぽちゃりと落ちた。

 「上手いねナカジ。やり込んでる」

 「・・昔から河原が好きなんだよ」

 「河原で弾いてたの、ギター」

 「弾くかよ、ぼーっとしてるだけだ」

 「ぼーっとねぇ・・」

 ぼーっとしてみる。
 土臭いのと、緑の匂いがしている。
 鳥が、真っ直ぐに飛ぶ。
 飛行機雲遠く遠く、延びていく。
 不思議と眩しく思わない、沈む赤の夕日。

 「冬とか寒くない?」

 「さすがに真冬がきたらやめてる」

 「風邪ひいたらだめだもんね」

 「だから、春が楽しみなんだよな」

 思い出したように付け加えて、がふきだした。

 「春が楽しみねぇ、たまには人間的なこと言うんだ」

 「うるせぇな」

 千切れた雲が、もうすぐ冬が来ると言った。
 もう少し、待っていてくれ。
 春を連れてくるからと、言った。










  【5】 再来を待って


 「あっあっ」

 「何だよ・!うるせぇな」

 「また来た、紙飛行機」

 はるか彼方指差して、

 「前にもあったなこんなの」

 「あったっけ」

 「お前が追いかけようとした」

 「あーそうだっけ!!じゃぁ追いかけてくるー」

 言って走り出そうとしてナカジが止めようとして

 「入ってきた」

 吸い寄せられるように紙飛行機が飛んで手元にやってきた。

 「すごいすごい!!」

 「何か書いてある」

 内心どこかわくわくしながら、丁寧に折り込まれた紙飛行機を開いた。

 「ぁ」

 ナカジの字。

 「ま、まさか・・!!」

 ナカジが青くなった。
 紙をひったくろうとしてに抑えられてナカジは真っ赤になってばたばたと後ずさった

 「・・ナカジ」

 文字列を読みきって、はにっこり笑った。

 「愛してくれてありがとう。」

 丁寧な字で、書き綴られた、愛の言葉









  【6】 スノースマイル


 手を繋いで帰ろうと、提案したのはどちらだったか。
 ぎこちない所作でナカジの手が一回り小さいの手を取って、

 「恋人繋ぎがいいよ」

 こう言ったのはの方だった。
 ナカジは明らかに照れながら指を絡めた。

 「困るんだよな」

 言いながら離さないのでが笑った。

 「寒いからこうしてたいの」

 「雪だ」

 呟いたら、本当に降っている。

 「うわぁ、初雪!!」

 楽しそうに見上げた。
 空いた手を空に仰いで、

 「あんまりはしゃぐなよ」

 「だって嬉しいんだよ、ナカジと一緒に見られたから!」

 「・・。」

 黙ってナカジはの手を引いた。
 ちょっとだけ強く、手を握った。

 「良かったな」

 独り言のように、ナカジが呟いた。

















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 書き溜めていた文にならない文を短編で出してみました。
 書きたいシーンだけ書くと言う道楽。
 道楽でも楽しいからいいのだ

                        051204

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