当ても無く彷徨う。





 或る一つの感情だけで人は動けるものだ。
 ふらりふらりと、左右を揺蕩うようにジャックは歩いた。
 未だ薄薄暗い街の中は、ジャックを受け入れるような、心地のよい空間だった。
 太陽が出たら、しばらく休もう。
 そう思いながらひたすら歩いた。

  『何処へ消えてしまったか』

             
              へ

              世
             界
            の
             外
              へ


      誰
       が
        連
       れ
      出
     し
    て
     く
      れ
       る
      と
       言
        う
         ん
          だ




 「どこだろう・・」

 見上げたら月が出ていた。
 あの世界で見た月は赤かったが、ここの月はなんだか朧気で、色の名前がない。

 あの一瞬、脳裏に浮かんだのは、誰だったのか。
 差し伸べた手は厭に白かった。
 逆光の中で、艶のある眼球だけが光っていた。

 重い足を引き摺ってただ、ジャックは歩く。
 ガスマスクが暑くて、毟るように外した。
 外気はヒヤリとして、頬に心地良かった。

 あの一瞬、ジャックは死んだ。
 忘れもしない、自分が果てのない淵に突き落とされたその瞬間を。
 死の瞬間というものは余りにも突然で、周りの景色がガラリと色を失う。

    おれは しぬ

 そう思ったとき、その白い手は差し伸べられた。
 その手の持ち主は見えない。逆光だ。見えない。

    外の世界へ行こう

 ジャックは従った。
 白い手は熱のない、蝋でできたような感触がした。
 "母"の手というのは、こんなものなのだろうか。
 それをジャックは知りえないが、その手は確かに、強くて、それでもどこか脆い。

    どこまで?

 問い返す。手は答えない。
 そして不意に、その瞬間、手は何処かへ消えうせ、見知らぬ世界にジャックはいた。
 そこはたった今までいた世界とは違う。
 何もかもが白かった。
 どす黒く汚れたものは、今のジャックには見得なかった。

 「どこへいった?」

 追いかけようにも目標がない。
 顔も、何も知らないのだ。
 行き場を失っても、ジャックは歩いた。

 時間の感覚がないからどの位の間隙があったかは分からないが
 確かにそのときジャックはその赤い目(まるでもといた世界の月のような)にそれが映るのを知った。

 「あっ」

 死の瞬間は突然だと言ったが、生を受ける瞬間も突然である。

 あの。あの色の眼。忘れない。目に焼きついた。白い手。

 「お前・・!」

 声が出ない。
 でも、"白い手"は振り返った。
 嗚呼、間違いじゃない。

 「…お前、あの」

 「ジャック?」

 唇が動いた。
 "白い手"は名前を知っていた。

 「ここに、いたんだ・・」

 「いたよ」

 「お前の・・名前…は」


    君に救い出されて君を探して君の名前を訊くと言うのはきっとそれは運命だったんだよ


 「    」


    ならその運命はきっと、ずっと前からあったんだね?












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 ふらりふらりと君を求めてただ揺蕩う

                         060306 百助


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