真っな花が好きだと彼は言う。
 ニコリと、真っ白な歯を並べて見せて笑う。
 ああ恐ろしい!私の愛する人よ!



 「お前はどんな花が好きなんだね?」

 わたしを振り返って言う。

 「花なんて 好きじゃない」

 極卒はがっかりしたような顔をする。
 それでも"笑顔"のまま。
 わたしは、わたしにあてがわれた真っ黒な椅子に座ったっきりだ。
 もう希少品となってしまったビロードの、漆黒の椅子。
 極卒はわたしにそれを与え、わたしを傍に"置いて"いる。

 「まだ怒ってゐるのか」

 わたしは何も言わない。

 「お前の兄は事故で死んだ、さうだらう?」

 「違う、貴方が殺した」

 極卒の顔が歪む。

 「莫迦なことを謂う」

 帝国主義者の、大理石みたいに白くて細い細い指が私のあごに掛かる。
 人じゃないように、冷たい。

 冷血。

 「此の戦争に勝てば、お前は皇帝の嫁に為れると謂うのに・・」

 そう言って笑う

 怖い。
 わたしは、恐怖を外に出さないように注意する。
 この男だけには、覚られてはいけない。

 「この国は・・負けるわ」

 がたん
 椅子が鳴る。
 極卒は顔を押えて仰け反る。
 声にならない声を上げる。

 「何を・・何を謂うんだ・・!!」

 「この国は、負けるの、極卒。」

 勝った。
 わたしがそう思ったとき、首元にあの冷たさを感じた。
 締め上げられる。

 「僕の国が、ッ・・負ける筈が無いだらう!!!」

 極卒の顔が近付く。
 眼が赫い。
 真っ黒な瞳孔に対比する。

 「僕の国は、勝つのだ・・!!お前も信じてゐるのだらう?何を恐れてゐるのだ」

 笑う。笑う。
 目の前が暗くなる。
 酸欠。
 顎に唾液が伝う。

 「お前さえ居れば、僕に怖いものは無い」

 赫い眼。

 「僕に服従しろ」

 笑う。

 「さうすれば、お前は生きることが出来るのだ」

 恐怖。

 「僕と共に在れば好いのだ」

 違う。

 怖いのは、

 貴方を愛している、

 私自身であるというのに。















 (こんな極卒君はいやだ/060820)




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